最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)1005号 判決 1968年4月09日
上告人
医療法人新光会
右代表者
桜井源吾
右訴訟代理人
和田良一
金山忠弘
大下慶郎
美作治夫
被上告人
向川富雄
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人和田良一、同金山忠弘、同大下慶郎、同美作治夫の上告理由第一点について。
原判決(その引用する第一審判決を含む以下同じ。)の確定した事実関係のもとにおいて、原判決が本件解雇をもつて労働組合法七条一号に掲げる不当労働行為を構成すると判断したことは相当であつて、所論の違法は認められない。
論旨は採用することができない。
同第二点について。
不当労働行為たる解雇については、旧労働組合法(昭和二〇年一二月二二日法律第五一号)においては、その一一条によりこれを禁止し、三三条に右法条に違反した使用者に対する罰則を規定していたが、現行労働組合法(昭和二四年六月一日法律第一七四号)においては、その七条一号によりこれを禁止し、禁止に違反しても直ちに処罰することなく、使用者に対する労働委員会の原状回復命令が裁判所の確定判決によつて支持されてもなお使用者が右命令に従わない場合に初めて処罰の対象にしている(同法二八条)。しかし、不当労働行為禁止の規定は、憲法二八条に由来し、労働者の団結権・団体行動権を保障するための規定であるから、右法条の趣旨からいつて、これに違反する法律行為は、旧法・現行法を通じて当然に無効と解すべきであつて、現行法においては、該行為が直ちに処罰の対象とされず、労働委員会による救済命令の制度があるからといつつて、旧法と異なる解釈をするのは相当ではない。従つて、本件解雇を無効と解した原判決の判断は相当であつて、法律の解釈については必ずしも理由を示す必要はないから、原判決に所論の違法は認められない。論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)
上告代理人和田良一、同金山忠弘、同大下慶郎、同美作治夫の上告理由
第一点 <省略>
第二点 原判決には、理由不備の違法がある。
原判決は、本件解雇につき、「不当労働行為を構成し無効である」といつているが、不当労働行為を構成するものとした場合、何故に当該解雇の意思表示が無効となるのか、その理由を示していないのは違法である。労働組合法は第七条に掲げた使用者の行為につき、同法第二七条による労働委員会の行政処分としての救済を与えるべきことを規定しているのであつて、第七条該当即無効という法律論をなし得ないものであること現行労働組合法制定当時から論ぜられて来ており、この点多言を要しないであろう。最高裁判所におかれても、憲法第二八条による団結権の保障と同第二九条による財産権の保障との権衡調整を顧慮した上、現行法体系のもとにおいて公の秩序に反するものについてこれを無効とする考え方を貫いて来ておられるものと思料する。しかるに原判決は、不当労働行為に該当し、直ちにもつて、漫然、本件解雇を無効なりとしたものであり、この点違法として破棄を免れない。